南へ行きたる処の道の東側なる商家のうしろに二ツほどありという。さらばそれも見んとて老媼《おうな》にわかれ立出で、それとおぼしき家にことわりいいて、突《つ》と裏の方に至り見るに、大さのやや異なるのみにて、ここのもそのさま前のと同じく、別に見るべきところもなし。ただここにはそれと知れたる外に、穴の口全く埋もれしままにて、いまだ掘発《ほりおこ》さざるがありて、そぞろに人の事を好む心を動かす。されど敢て乞うて掘るべくもあらねば、そのままに見すてて道を急ぎ、国神村というに至る。この村の名も、国神塚といえるがこのあたりにあるより称えそめしなるべし。
今宵《こよい》は大宮に仮寝の夢を結ばんとおもえるに、路程《みちのり》はなお近からず、天《そら》は雨降らんとし、足は疲れたれば、すすむるを幸に金沢橋の袂《たもと》より車に乗る。流れの上へ上へとのぼるなれど、路あしからねば車も行きなずまず。とかくするうち夏の夕の空かわりやすく、雨雲|天《そら》をおおいしと見る程もなく、山風ざわざわと吹き下し来て草も木も鳴るとひとしく、雨ばらばらと落つるやがて車の幌もかけあえぬまに篠《しの》つく如くふり出しぬ。赤平川の鉄橋
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