へた。流石に澄ましたものだ。氏はそこで工合よく禮を作《な》して而して去つたのである。其場はそれで濟んで仕舞つたのであるが、自分にも「らいうん」といふのが何樣も、トツケも無くて分らなかつた。何樣も禪録にも「らいうん」といふのは思當らないので、後で、あの「らいうん」といふのは何だね、と聞くと、らいうんは來る雲さ、雲がブラ/\と來る其意は何樣だと問うてやつたのさ、と云ふので、予は堪《たま》らなくなつて笑ひ出すと、氏も一緒になつて面白がつて笑つてゐるのであつた。後年基督教の外人宣教師が小梅あたりに來て住んでゐたので、氏も其教を聽いたから、宣教師の妻が氏の家に訪ふに及んだ。ところが來て見ると、室中一ぱいに色※[#二の字点、1−2−22]な物がゴテゴテ有る、中にも古い佛像などが二ツや三ツで無く飾つてあつたので、外國婦人の事だから眼を瞠《みは》つて驚いた。氏は其樣子を見て、其等の偶像を指さしながら、“All is my toys.”と云つたので、其日だつたか其次の日だつたか、其談を聞いて、予は「らいうん」を思ひ出して、おもしろいと思つた。
 人類學を研究するなぞといふ然樣いふ肩の張つた譯では無かつた
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