明さが然らしめたのであらう。
それで何人に對しても極めて平等に、また温和に、支那流にいつたら、いはゆる一團の和氣を以て人に接した人であつた。かりそめにも人を強ひたり人を壓したりするやうなことはその氣味さへ見せぬ人であつた。勿論自分も人に干渉されることや、また強ひられるやうなことは甚だ好まなかつた。どこまでも他を一個の人として存在させ、自分も一個の人として立ち、そして同じ日月の下にこの生を了せんとする、といふ調子をもつて終始してゐた。で、交際も餘り深入りすること無しに淡※[#二の字点、1−2−22]と淺い川の水が清く流るゝやうに濟ませて行くといふ人であつた。そのあつさりした風格は或種類の人には冷淡だなど評されもしたが、よし冷淡であつたにしても、それはたゞ相互の自由を尊重するところから出たものであつた。天成の自由人であつたのであり、且善良であつたのであり、そして自分は自分の趣味を自分の生命としてゐたのであつた。人に迷惑を掛けないで、自分でおとなしく遊んでゐるのに越したことは無い、といふのがその欺かざる信向であつた。
ところでそのおとなしく遊んでゐるのが、泥繪具で汚らしい拙いやうな畫を寫
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