トしほ深かるべき道理《ことわり》ならずや。
今年五月の中の頃、鼠頭魚釣りの遊びをせんと思ひ立ちて、弟を柳橋のほとりの吾妻屋といふ船宿に遣り、来む二十一日の日曜には舟を虚《むなし》うして吾等を待てと堅く約束を結ばしめつ、ひたすらに其日の至るを心楽みにして、平常《つね》のおのれが為すべき業《わざ》を為しながら一日《ひとひ》※※[#「※」は2字とも「二の字点」、第3水準1−2−22、162−9]と日を送りけり。
待つには長き日も立ちて、明日はいよ/\其日となりたる二十日の朝、聊か事ありて浅草まで行きたる帰るさ、不図心づきて明日の遊びの用の釣の具一ト揃へを購《か》はんと思ひしかば、二天門前に立寄りたり。こは家に釣の具の備への無きにはあらねど、猶ほ良きものを新に買ひ調へて携へ行かんには必ず利多かるべしと思ひてなり。書を能くするものは筆を撰まずとは動《やゝ》もすれば人の言ふところにして、下手の道具詮議とは、まことによく拙きありさまを罵り尽したる語《ことば》にはあれど、曲りたる矢にては※[#「※」は「はねかんむり+廾」、第3水準1−90−29、162−15]《げい》も射て中てんこと難かるべく、飛
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