いて、平《たいら》の三郎御供申し、大和《やまと》の奥郡《おくごおり》へ落し申したる心外さ、口惜《くちおし》さ。四月九日の夜に至って、人々最後の御盃、御《お》腹召されんとて藤四郎の刀を以て、三度まで引給えど曾《かつ》て切れざりしとよ、ヤイ、合点が行くか、藤四郎ほどの名作が、切れぬ筈も無く、我が君の怯《おく》れたまいたるわけも無けれど、皆是れ御最期までも吾《わ》が君の、世を思い、家を思い、臣下を思いたまいて、孔子《こうし》が魯《ろ》の国を去りかね玉いたる優しき御心ぞ。敵愈々逼りたれば吾が兄備前守」
と此処まで云いて今更の感に大粒の涙ハラハラと、
「雑兵共に踏入られては、御かばねの上の御恥も厭《いと》わしと、冠《かむ》リ[#「リ」は小書き]落しの信国が刀を抜いて、おのれが股《もも》を二度突通し試み、如何にも刃味|宜《よ》しとて主君に奉る。今は斯様《こう》よとそれにて御自害あり、近臣一同も死出の御供、城は火をかけて、灰今冷やかなる、其の残った臣下の我等一党、其儘《そのまま》に草に隠れ茂みに伏して、何で此世に生命《いのち》生きようや。無念骨髄に徹して歯を咬《か》み拳を握る幾月日、互に義に集まる鉄
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