る大の拳《こぶし》に自然と入りたる力さえ見せて、
「我等が企と申したが御気に障ったそうナが、関《かま》わぬ、もはや関わぬ、此の機《しお》を失って何の斟酌《しんしゃく》。明日《あす》といい、明後日《あさって》といい、又明日といい明後日と云い、何の手筈がまだ調わぬ、彼《かに》の用意がまだ成らぬと、企を起してより延び延びの月日、人々の智慧才覚は然《さ》もあろうが、丹下右膳は倦《うん》じ果て申した。臙脂屋のじじい、それ、おのれの首が飛ぶぞ、用心せい、そもそも我等の企と申すのはナ」
と云いかけて、主人の面《おもて》をグッと睨む。主人も今は如何ともし難しと諦めてか、但しは此一場の始末を何とせんかと、※[#「匈/月」、1006−中−18]底《きょうてい》深く考え居りてか、差当りて何と為ん様子も無きに、右膳は愈々勝に乗り、
「故管領殿河内の御陣にて、表裏異心のともがらの奸計《かんけい》に陥入り、俄《にわか》に寄する数万《すまん》の敵、味方は総州征伐のためのみの出先の小勢、ほかに援兵無ければ、先ず公方をば筒井へ落しまいらせ、十三歳の若君|尚慶《ひさよし》殿ともあるものを、卑しき桂の遊女の風情に粧《よそ》
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