る。癪に触るものは一ツでも多く叩き潰《つぶ》し、一人でも多く叩き斬ろうに、遠慮も斟酌《しんしゃく》も何有ろう。御身は器量骨柄も勝《すぐ》れ、一ト[#「ト」は小書き]風ある気象もおもしろいで、これまでは談《はなし》も交したなれど、御身の頼みは聴入れ申さぬ。」
と感慨交りに厳しくことわられ、取縋《とりすが》ろうすべも無く没義道《もぎどう》に振放された。
「かほどまでに真実《まこと》を尽して御願い申しましても。」
「いやでござる。」
「金銀財宝、何なりと思召す通りに計らいましても。」
「いやでござる。」
「何事の御手助けなりとも致しましても。」
「いやでござる。」
「如何様にも御指図下さりますれば、仮令《たとい》臙脂屋身代|悉《ことごと》く灰となりましても御指図通りに致しまするが……」
「いやでござる。」
ここに至って客の老人《としより》は徐《おもむ》ろに頭《こうべ》を擡《あ》げた。艶やかに兀《は》げた前頭からは光りが走った。其の澄んだ眼はチラリと主人を射た。が、又|忽《たちま》ちに頭《かしら》を少し下げて、低い調子の沈着な声で、
「おろかしい獣は愈々《いよいよ》かなわぬ時は刃物をも咬《か
前へ
次へ
全67ページ中49ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング