日が、既に四五年以上も経たものであろう。それでも、だだ広い其の母屋の中《うち》の広座敷の、古畳の寄せ集め敷《じき》、隙間もあれば凸凹《たかひく》もあり、下手の板戸は立附が悪くなって二寸も裾があき、頭があき、上手の襖《ふすま》は引手が脱《ぬ》けて、妖魔《ようま》の眼のように※[#「穴/目、第3水準1−89−50]然《ようぜん》と奥の方《かた》の灰暗《ほのぐら》さを湛《たた》えている其中に、主客の座を分って安らかに対座している二人がある。客はあたたかげな焦茶の小袖《こそで》ふくよかなのを着て、同じ色の少し浅い肩衣《かたぎぬ》の幅細なのと、同じ袴《はかま》。慇懃《いんぎん》なる物ごし、福々しい笑顔。それに引かえて主人《あるじ》は萎《な》え汚れて黒ばめる衣裳を、流石《さすが》に寒げに着てこそは居ないが、身の痩《やせ》の知らるる怒り肩は稜々《りょうりょう》として、巌骨《がんこつ》霜を帯びて屹然《きつぜん》として聳《そび》ゆるが如く、凜《りん》として居丈高に坐った風情は、容易に傍《そば》近く寄り難いありさまである。然し其姿勢にも似ず、顔だけは不思議にもにッたりと笑を含んで、眼にも嶮《けわ》しい光は
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