主人の処世の老練と、観照の周密と、洞察力の鋭敏とは、一切を識破して、そして其力を用いて、将に発せんとする不幸の決潰《けっかい》を阻止せんとするのである。しかも其の中でも老主人は人の心を攬《と》ることを忘れはし無かった。
「分った。言う通りにして計らってやる。それにしてもそちは見上げた器量じゃ。過ちは時の魔というものだ、免《ゆる》してやる。口も能《よ》く利ける、気立も好い、感心に忠義ごころも厚い。行末は必ず好い男を見立てて出世させて遣る。」
と附足して、やさしい眼で女を見遣った時は、前の福々爺《ふくふくや》になっていた。女はただ頭《かしら》を下げて無言に恩を謝するのみであった。
「ただナ、惜いことは其時そちが今一ト[#「ト」は小書き]働きして呉れていたら十二分だったものを。其様に深くは、望む方が無理じゃが。あれも其処までは気が廻らなかったろうか。」
「ト仰《おっし》ありまするのは。」
「イヤサ、少し調べれば直《じき》に分ることだから好いようなものの、此方《こなた》は何の何某《なにがし》というものの家と、其男めには悟られて了って居ながら、其男めを此方では、何処の何という者と、大よその見当ぐ
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