、頭上から三角なりに被《かぶ》って来たが、今しも天《そら》を仰いで三四歩ゆるりと歩いた後に、いよいよ雪は断れるナと判じたのだろう、
「エーッ」
と、それを道の左の広みの方へかなぐり捨てざまに抛《ほう》って了った。如何にも其様《そん》な悪びれた小汚い物を暫時にせよ被《き》ていたのが癇《かん》に触るので、其物に感謝の代りに怒喝を加えて抛《なげ》棄《す》てて気を宜《よ》くしたのであろう。もっとも初から捨てさせるつもりで何処ぞで呉れ、捨てるつもりで被て来たには相違無いわびしいものであった。
少し速足になった。雪はもとよりべた雪だった。ト、下駄の歯の間に溜《たま》った雪に足を取られて、ほとほと顛《ころ》びそうになった。が、素捷《すばや》い身のこなし、足の踏立変《ふみたてが》えの巧さで、二三歩泳ぎはしたが、しゃんと踏止まった。
「エーッ」
今度は自分の不覚を自分で叱る意で毒喝したのである。余程|肚《はら》の中がむしゃくしゃして居て、悪気が噴出したがっていたのであろう。
叱咤《しった》したとて雪は脱《と》れはしない、益々固くなって歯の間に居しこるばかりだった。そこで、ふと見ると小溝の上に小さな
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