渡しになるとは、と真正面から此方の理屈の木刀を揮つて先方の毒悪の真剣と切結ぶやうな不利なことをする者では無かつた。何でも無い顔をして模本の雲林を受取つた。敵の真剣を受留めはしないで、澄まして体を交はして危気の無いところに身を置いたのである。そして斯様いふことを言つた。「主人はたゞ私に画を頂戴して参れとばかりでは無く、こちらの定窯鼎をお預かり致してまゐれ、御直段の事はいづれ御相談致しますといふことで」と云つた。定鼎の売れ口が有りさうな談である。そこで延珸は悦んで例の鼎を出して仏元に渡した。延珸は仏元に、より長い真剣を渡して終つたのである。
そこへ正賓は遣つて来た。そして画を検査してから、「售《う》れないなら售れないで、原物を返して呉れるべきに、狡いことをしては困る」と云ふと、「飛んでも無い、正しくこれは原物で」と延珸は云ひ張る。「イヤ、然様は脱けさせない。自分は隠しじるしを仕て置いた、それが今何処に在る。ソンナ甘い手を食はせられる自分ぢやない」と云ふ。「そりや云掛りといふもので、原物を返せば論は無い筈だ」と云ふ。双方負けず劣らず遣合つて、チャン/\バラと闘つたが、仏元は左右の指を鼎の耳
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