の巧偸をやらかして、※[#「墓」の「土」に代えて「手」、第3水準1−84−88]本《もほん》の方を渡して知らん顔をきめようと云ふのであつた。ところが先方にも荒神様が付いてゐない訳では無くて、チャント隠し印のあることには気が付かなかつたのである。斯様いふイキサツだから何時まで経つても売れない。そこで正賓は召使の男を遣つて、雲林を取返して来いと云付けた。隠し印のことは無論男に呑込ませたのである。此の男の王仏元といふのも、平常《いつも》主人等の五分もすかさかいところを見聞して知つてゐるので、中々賢くなつてゐる奴だつた。で、仏元は延珸のところへ往つて、雲林を返して下さいと云ふと、廷珸は承知して一幅を返した。一幅は何も彼も異つては居なかつた。しかし仏元は隠しじるしの有り処に就いて其の有無を査べた。不思議や主人の花押は影も形も無かつた。無い筈である、延珸が今渡したものは正しく※[#「墓」の「土」に代えて「手」、第3水準1−84−88]品なのであるもの。
仏元は扨こそと腹の中でニヤリと笑つた。ところで此男がまた真剣白刃取りを奉書の紙一枚で遣付けようといふ男だつたから、これは怪しからん、模本贋物を御
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