伐墓の事は随分めづらしいことで無かつたことが思はれる。支那の古俗では、身分のある死者の口中には玉を含ませて葬ることもあるのだから、酷い奴は冢中の宝物から、骸骨の口の中の玉まで引ぱり出して奪ふことも敢てしようとしたことも有らう。※[#「さんずい+維」、第3水準1−87−26]県《ゐけん》あたりとか聞いたが、今でも百姓が冬の農暇になると、鋤鍬を用意して先達を先に立てゝ、あちこちの古い墓を捜しまはつて、所謂掘出し物|※[#「てへん+峠のつくり」、第3水準1−84−76]《かせ》ぎをするといふ噂を聞いた。虚談では無いらしい。日本でも時※[#二の字点、1−2−22]飛んでもないことをする者があつて、先年西の方の某国で或る貴い塋域《えいゐき》を犯した事件といふのが伝へられた。聞くさへ忌はしいことだが、掘出し物といふ語は無論かういふ事に本づいて出来た語だから、苟も普通人的感情を有してゐる者の使ふべきでも思ふべきでも無い語であり事である。それにも関はらず掘出し物根性の者が多く、蚤取り眼、熊鷹目で、内心大掘出しを仕度がつてゐる。人が少し悪い代りに虫が大に好い談である。然様いふ人間が多いから商売が険悪にな
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