然るに骨董いぢりをすると、骨董には必ず何程かの価があり金銭観念が伴ふので、知らず識らずに賤しく無かつた人も掘出し気になる気味のあるものである。これは骨董のイヤな箇条の一つになる。
掘出し物といふ言葉は元来が忌はしい言葉で、最初は土中|冢中《ちようちゆう》などから掘出した物といふことに違ひ無い。悪い奴が棒一本か鍬一挺で、墓など掘つて結構なものを得る、それが即ち掘出物で、怪しからぬ次第だ。伐墓といふ語は支那には古い言葉で、昔から無法者が貴人などの墓を掘つた。今存してゐる三略は張良の墓を掘つて彼が黄石公から頂戴したものをアップしたといふ伝説だが、三略は然様して世に出たものでは無い。全く偽物だ。然し古い立派な人の墓を掘ることは行はれた事で、明の天子の墓を悪僧が掘つて種※[#二の字点、1−2−22]の貴い物を奪ひ、おまけに骸骨を足蹴にしたので罰が当つて脚疾になり、其事遂に発覚するに至つた読むさへ忌はしい談は雑書に見えて居る。発掘さるゝを厭つて曹操は多くの偽塚を造つて置いたなどといふことは、近頃の考証で然様では無いと分明したが、王安石などさへ偽塚の伝説を信じて詩を作つたりして居たところを見ると、
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