ほど》世の中の調節に与つて霊力が有つたか知れぬ。其利を受けた者は勿論利休では無い、秀吉で有つた。秀吉は恐ろしい男で、神仙を駆使して吾が用を為さしめたのである。扨祭りが済めば芻狗《すうく》は不要だ。よい加減に不換紙幣が流通した時、不換紙幣発行は打切られ、利休は詰らぬ理屈を付けられて殺されて終つた。後から/\と際限無く発行されるのでは無いから、不換紙幣は長く其の価値を保つた。各大名や有福町人の蔵の中に収まりかへつてゐた。考へて見れば黄金や宝石だつて人生に取つて真価値が有るのでは無い、矢張り一種の手形ぢやまでなのであらう。徹底して観ずれば骨董も黄金も宝石も兌換券も不換紙幣も似たり寄つたりで、承知されて通用すれば樹の葉が小判でも不思議は無いのだ。骨董の佳い物おもしろい物の方が大判やダイヤモンドよりも佳くもあり面白くもあるから、金貨や兌換券で高慢税をウンと払つて、釉《くすり》の工合の妙味言ふ可からざる茶碗なり茶入なり、何によらず見処の有る骨董を、好きならば手にして楽しむ方が、暢達した料簡といふものだ。理屈に沈む秋のさびしさ、よりも、理屈をぬけて春のおもしろ、の方が好さゝうな訳だ。関西の大富豪で茶
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