や》だって手に入る訳はありはしない。勧業債券は一枚買って千円も二千円もになる事はあっても、掘出しなんということは先以《まずもっ》てなかるべきことだ。悪性《あくしょう》の料簡だ、劣等の心得だ、そして暗愚の意図というものだ。しかるに骨董いじりをすると、骨董には必ずどれほどかの価《あたい》があり金銭観念が伴うので、知らず識《し》らずに賤《いや》しくなかった人も掘出し気になる気味のあるものである。これは骨董のイヤな箇条の一つになる。
 掘出し物という言葉は元来が忌《いま》わしい言葉で、最初は土中《どちゅう》冢中《ちょうちゅう》などから掘出した物ということに違いない。悪い奴が棒一本か鍬《くわ》一|挺《ちょう》で、墓など掘って結構なものを得る、それが既ち掘出物で、怪しからぬ次第だ。伐墓《ばつぼ》という語は支那には古い言葉で、昔から無法者が貴人などの墓を掘った。今存している三略《さんりゃく》は張良《ちょうりょう》の墓を掘って彼が黄石公《こうせきこう》から頂戴したものをアップしたという伝説だが、三略はそうして世に出たものではない。全く偽物だ。しかし古い立派な人の墓を掘ることは行われた事で、明《みん》の
前へ 次へ
全49ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング