見たのじゃ、さあ寒いに風邪をひいてはなりませぬ、床にはいって寝て居るがよい、と引き倒すようにして横にならせ、掻巻《かいまき》かけて隙間《すきま》なきよう上から押しつけやる母の顔を見ながら眼をぱっちり、ああ怖《こわ》かった、今よその怖い人が。おゝおゝ、どうかしましたか。大きな、大きな鉄槌《げんのう》で、黙って坐って居る父様の、頭を打って幾つも打って、頭が半分|砕《こわ》れたので坊は大変びっくりした。ええ鶴亀鶴亀、厭なこと、延喜でもないことを云う、と眉《まゆ》を皺《しわ》むる折も折、戸外《おもて》を通る納豆売りの戦《ふる》え声に覚えある奴が、ちェッ忌々《いまいま》しい草鞋《わらじ》が切れた、と打ち独語《つぶや》きて行き過ぐるに女房ますます気色を悪《あ》しくし、台所に出て釜《かま》の下を焚《た》きつくれば思うごとく燃えざる薪《まき》も腹立たしく、引窓の滑《すべ》りよく明かぬも今さらのように焦《じ》れったく、ああ何となく厭な日と思うも心からぞとは知りながら、なお気になることのみ気にすればにや多けれど、また云い出さば笑われんと自分で呵《しか》って平日《いつも》よりは笑顔をつくり言葉にも活気をもた
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