ってやれ、と心ありげに云わるる言葉を源太早くも合点して、ええ可愛がってやりますとも、といと清《すず》しげに答うれば、上人満面|皺《しわ》にして悦《よろこ》びたまいつ、よいわよいわ、ああ気味のよい男児じゃな、と真から底からほめられて、もったいなさはありながら源太おもわず頭《こうべ》をあげ、お蔭《かげ》で男児になれましたか、と一語に無限の感慨を含めて喜ぶ男泣き。はやこの時に十兵衛が仕事に助力せん心の、世に美しくも湧きたるなるべし。

     其二十

 十兵衛感応寺にいたりて朗円上人に見《まみ》え、涙ながらに辞退の旨云うて帰りしその日の味気なさ、煙草のむだけの気も動かすに力なく、茫然《ぼんやり》としてつくづくわが身の薄命《ふしあわせ》、浮世の渡りぐるしきことなど思い廻《めぐ》らせば思い廻らすほど嬉《うれ》しからず、時刻になりて食う飯の味が今さら異《かわ》れるではなけれど、箸《はし》持つ手さえ躊躇《たゆた》いがちにて舌が美味《うも》うは受けとらぬに、平常《つね》は六碗七碗を快う喫《く》いしもわずかに一碗二碗で終え、茶ばかりかえって多く飲むも、心に不悦《まずさ》のある人の免れがたき慣例《なら
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