ことでもしはしませぬか、と心配そうに尋ぬるもおかしく、まあ何でも好いわ、飯でも食って仕事に行きやれ、と和《やさ》しく云われてますます畏《おそ》れ、恍然《うっとり》として腕を組みしきりに考え込む風情《ふぜい》、正直なるが可愛らし。
清吉を出しやりたる後、源太はなおも考えにひとり沈みて日ごろの快活《さっぱり》とした調子に似もやらず、ろくろくお吉に口さえきかで思案に思案を凝らせしが、ああわかったと独《ひと》り言《ごと》するかと思えば、愍然《ふびん》なと溜息つき、ええ抛《な》げようかと云うかとおもえば、どうしてくりょうと腹立つ様子を傍にてお吉の見る辛さ、問い慰めんと口を出《いだ》せば黙っていよとやりこめられ、詮方《せんかた》なさに胸の中にて空しく心をいたむるばかり。源太はそれらに関《かま》いもせず夕暮方まで考え考え、ようやく思い定めやしけんつと身を起して衣服をあらため、感応寺に行き上人に見《まみ》えて昨夜の始終をば隠すことなく物語りし末、一旦は私もあまりわからぬ十兵衛の答えに腹を立てしものの帰ってよくよく考うれば、たとえば私一人して立派に塔は建つるにせよ、それではせっかくお諭《さと》しを受け
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