て度を失う傍《そば》にて女房が気もわくせき、親方様の御異見になぜまあ早く付かれぬ、と責むるがごとく恨みわび、言葉そぞろに勧むれば十兵衛ついに絶体絶命、下げたる頭《こうべ》を徐《しず》かに上げ円《つぶら》の眼《まなこ》を剥《む》き出して、一ツの仕事を二人でするは、よしや十兵衛心になっても副になっても、厭なりゃどうしてもできませぬ、親方一人でお建てなされ、私は馬鹿で終りまする、と皆まで云わせず源太は怒って、これほど事を分けて云う我の親切《なさけ》を無にしてもか。はい、ありがとうはござりまするが、虚言《うそ》は申せず、厭なりゃできませぬ。汝《おのれ》よく云った、源太の言葉にどうでもつかぬか。是非ないことでござります。やあ覚えていよこののっそりめ、他《ひと》の情の分らぬ奴、そのようのこと云えた義理か、よしよし汝に口は利かぬ、一生|溝《どぶ》でもいじって暮せ、五重塔は気の毒ながら汝に指もささせまい、源太一人で立派に建てる、ならば手柄に批点《てん》でも打て。
其十六
えい、ありがとうござります、滅法界に酔いました、もう飲《いけ》やせぬ、と空辞誼《そらじぎ》はうるさいほどしながら、猪
前へ
次へ
全143ページ中63ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング