、つい気にかかる仕事の話しゆえ思わず様子の聞きたくて、よけいなことも胸の狭いだけに饒舌《しゃべ》ったわけ、と自分が真実|籠《こ》めし言葉をわざとごくごく軽うしてしもうて、どこまでも夫の分別に従うよう表面《うわべ》を粧うも、幾らか夫の腹の底にある煩悶《もしゃくしゃ》を殺《そ》いでやりたさよりの真実《まこと》。源太もこれに角張りかかった顔をやわらげ、何ごとも皆|天運《まわりあわせ》じゃ、此方《こち》の了見さえ温順《すなお》に和《やさ》しくもっていたならまた好いことの廻って来ようと、こうおもって見ればのっそりに半口やるもかえって好い心持、世間は気次第で忌々《いまいま》しくも面白くもなるものゆえ、できるだけは卑劣《けち》な※[#「金+肅」、第3水準1−93−39]《さび》を根性に着けず瀟洒《あっさり》と世を奇麗に渡りさえすればそれで好いわ、と云いさしてぐいと仰飲《あお》ぎ、後は芝居の噂やら弟子どもが行状《みもち》の噂、真に罪なき雑話を下物《さかな》に酒も過ぎぬほど心よく飲んで、下卑《げび》た体裁《さま》ではあれどとり[#「とり」に傍点]膳|睦《むつ》まじく飯を喫了《おわ》り、多方《おおかた》も
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