すそ》を弟は絞りて互いにいたわり慰めけるが、かの橋をまた引き来たりて洲の後面《うしろ》なる流れに打ちかけ、はやこの洲には用なければなおもあなたに遊び歩かん、汝たちまずこれを渡れと、長者の言葉に兄弟は顔を見合いて先刻《さき》には似ず、兄上先にお渡りなされ、弟よ先に渡るがよいと譲り合いしが、年順なれば兄まず渡るその時に、転《まろ》びやすきを気遣いて弟は端を揺がぬようしかと抑《おさ》ゆる、その次に弟渡れば兄もまた揺がぬように抑えやり、長者は苦なく飛び越えて、三人ともにいと長閑《のどけ》くそぞろに歩むそのうちに、兄が図らず拾いし石を弟が見れば美しき蓮華の形をなせる石、弟が摘《つま》み上げたる砂を兄が覗《のぞ》けば眼も眩《まばゆ》く五金の光を放ちていたるに、兄弟ともども歓喜《よろこ》び楽しみ、互いに得たる幸福《しあわせ》を互いに深く讃歎し合う、その時長者は懐中《ふところ》より真実《まこと》の璧《たま》の蓮華を取り出し兄に与えて、弟にも真実の砂金を袖より出して大切《だいじ》にせよと与えたという、話してしまえば小供|欺《だま》しのようじゃが仏説に虚言《うそ》はない、小児欺しでは決してない、噛みしめて
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