のような砂でできて居る美しい洲《す》のあったれば、長者は興に乗じて一尋《ひとひろ》ばかりの流れを無造作に飛び越え、あなたこなたを見廻せば、洲の後面《うしろ》の方もまた一尋ほどの流れで陸《おか》と隔てられたる別世界、まるで浮世のなまぐさい土地《つち》とは懸絶《かけはな》れた清浄《しょうじょう》の地であったまま独《ひと》り歓び喜んで踊躍《ゆやく》したが、渉《わた》ろうとしても渉り得ない二人の児童《こども》が羨ましがって喚《よ》び叫ぶを可憐《あわれ》に思い、汝《そなた》たちには来ることのできぬ清浄の地であるが、さほどに来たくば渡らしてやるほどに待っていよ、見よ見よわが足下《あしもと》のこの磧《こいし》は一々|蓮華《れんげ》の形状《かたち》をなし居る世に珍しき磧なり、わが眼の前のこの砂は一々五金の光をもてる比類《たぐい》まれなる砂なるぞと説き示せば、二人は遠眼にそれを見ていよいよ焦躁《あせ》り渡ろうとするを、長者は徐《しず》かに制しながら、洪水《おおみず》の時にても根こぎになったるらしき棕櫚《しゅろ》の樹の一尋余りなを架《か》け渡して橋としてやったに、我が先へ汝は後にと兄弟争い鬩《せめ》いだ末
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