古い話しのおかしなを二ツ三ツ昨日見出したを話して聞かそう、と笑顔やさしく、朋友《ともだち》かなんぞのように二人をあしろうて、さて何事を云い出さるるやら。
其九
小僧《こぼうず》がもって来し茶を上人みずから汲みたまいてすすめらるれば、二人とももったいながりて恐れ入りながら頂戴するを、そう遠慮されては言葉に角が取れいで話が丸う行かぬわ、さあ菓子も挾《はさ》んではやらぬから勝手に摘《つま》んでくれ、と高坏《たかつき》推しやりてみずからも天目取り上げ喉《のど》を湿《うるお》したまい、面白い話というも桑門《よすてびと》の老僧《わし》らにはそうたくさんないものながら、このごろ読んだお経の中《うち》につくづくなるほどと感心したことのある、聞いてくれこういう話しじゃ、むかしある国の長者が二人の子を引きつれてうららかな天気の節《おり》に、香《かお》りのする花の咲き軟らかな草の滋《しげ》って居る広野《ひろの》を愉快《たのし》げに遊行《ゆぎょう》したところ、水は大分に夏の初めゆえ涸《か》れたれどなお清らかに流れて岸を洗うて居る大きな川に出で逢うた、その川の中には珠のような小磧《こいし》やら銀
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