、初重より五重までの配合《つりあい》、屋根|庇廂《ひさし》の勾配《こうばい》、腰の高さ、椽木《たるき》の割賦《わりふり》、九輪請花露盤宝珠《くりんうけばなろばんほうじゅ》の体裁までどこに可厭《いや》なるところもなく、水際《みずぎわ》立ったる細工ぶり、これがあの不器用らしき男の手にてできたるものかと疑わるるほど巧緻《たくみ》なれば、独りひそかに歎じたまいて、かほどの技倆《うで》をもちながら空《むな》しく埋《うず》もれ、名を発せず世を経るものもあることか、傍眼《わきめ》にさえも気の毒なるを当人の身となりてはいかに口惜しきことならん、あわれかかるものに成るべきならば功名《てがら》を得させて、多年|抱《いだ》ける心願《こころだのみ》に負《そむ》かざらしめたし、草木とともに朽ちて行く人の身はもとより因縁仮和合《いんねんけわごう》、よしや惜しむとも惜しみて甲斐なく止《とど》めて止まらねど、たとえば木匠《こだくみ》の道は小なるにせよそれに一心の誠を委《ゆだ》ね生命《いのち》をかけて、欲も大概《あらまし》は忘れ卑劣《きたな》き念《おもい》も起さず、ただただ鑿《のみ》をもってはよく穿《ほ》らんことを思い
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