ごとく瞬《またた》く間《ひま》に金銭の驚かるるほど集まりけるが、それより世才に長《た》けたるものの世話人となり用人となり、万事万端|執《と》り行うてやがて立派に成就しけるとは、聞いてさえ小気味のよき話なり。
 しかるに悉皆《しっかい》成就の暁、用人頭の為右衛門普請諸入用諸雑費一切しめくくり、手脱《てぬか》ることなく決算したるになお大金の剰《あま》れるあり。これをばいかになすべきと役僧の円道《えんどう》もろとも、髪ある頭に髪なき頭突き合わせて相談したれど別に殊勝なる分別も出でず、田地を買わんか畠《はた》買わんか、田も畠も余るほど寄附のあれば今さらまたこの浄財をそのようなことに費すにも及ばじと思案にあまして、面倒なりよきに計らえと皺枯《しわが》れたる御声にて云いたまわんは知れてあれど、恐る恐る円道ある時、思《おぼ》さるる用途《みち》もやと伺いしに、塔を建てよとただ一言云われしぎり振り向きもしたまわず、鼈甲縁《べっこうぶち》の大きなる眼鏡《めがね》の中《うち》より微《かす》かなる眼の光りを放たれて、何の経やら論やらを黙々と読み続けられけるが、いよいよ塔の建つに定まって例の源太に、積り書|出《
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