ともに塔に上られ、心あって雛僧《こぞう》に持たせられしお筆に墨汁《すみ》したたか含ませ、我この塔に銘じて得させん、十兵衛も見よ源太も見よと宣《のたま》いつつ、江都の住人十兵衛これを造り川越源太郎これを成す、年月日とぞ筆太に記《しる》しおわられ、満面に笑みを湛《たた》えて振り顧《かえ》りたまえば、両人ともに言葉なくただ平伏《ひれふ》して拝謝《おが》みけるが、それより宝塔|長《とこしな》えに天に聳《そび》えて、西より瞻《み》れば飛檐《ひえん》ある時素月を吐き、東より望めば勾欄《こうらん》夕べに紅日を呑んで、百有余年の今になるまで、譚《はなし》は活《い》きて遺《のこ》りける。
底本:「日本の文学 1 坪内逍遙 二葉亭四迷 幸田露伴」中央公論社
1970(昭和45)年1月5日初版発行
初出:「国会新聞」
1891(明治24)年11月〜1892(明治25)年4月
※このファイルには、以下の青空文庫のテキストを、上記底本にそって修正し、組み入れました。
「五重塔 新字旧仮名」(入力:kompass、校正:浅原庸子)
入力:佐野良二
校正:川山隆
2009年9月11日作成
青空文庫
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