えば、さてもその場に臨んでの知恵のない奴め、なぜその時に上人様が十兵衛来いとの仰せじゃとは云わぬ、あれあれあの揺るる態《さま》を見よ、汝《きさま》までがのっそりに同化《かぶ》れて寛怠過ぎた了見じゃ、是非はない、も一度行って上人様のお言葉じゃと欺誑《たばか》り、文句いわせず連れて来い、と円道に烈しく叱られ、忌々《いまいま》しさに独語《つぶや》きつつ七蔵ふたたび寺門を出でぬ。
其三十四
さあ十兵衛、今度は是非に来よ四の五のは云わせぬ、上人様のお召しじゃぞ、と七蔵|爺《じじ》いきりきって門口から我鳴《がな》れば、十兵衛聞くより身を起して、なにあの、上人様のお召しなさるとか、七蔵殿それは真実《まこと》でござりまするか、ああなさけない、何ほど風の強ければとて頼みきったる上人様までが、この十兵衛の一心かけて建てたものを脆《もろ》くも破壊《こわ》るるかのように思し召されたか口惜しい、世界に我を慈悲の眼で見て下さるるただ一つの神とも仏ともおもうていた上人様にも、真底からはわが手腕《うで》たしかと思われざりしか、つくづく頼もしげなき世間、もう十兵衛の生き甲斐なし、たまたま当時に双《なら》
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