あれ》が一人の母のことは彼さえいねば我夫にも話して扶助《たすく》るに厭は云わせまじく、また厭というような分らぬことを云いもしますまいなれば掛念《けねん》はなけれど、妾が今夜来たことやら蔭《かげ》で清をばいたわることは、我夫へは当分|秘密《ないしょ》にして。わかった、えらい、もう用はなかろう、お帰りお帰り、源太が大抵来るかも知れぬ、撞見《でっくわ》しては拙《まず》かろう、と愛想はなけれど真実はある言葉に、お吉|嬉《うれ》しく頼みおきて帰れば、その後へ引きちがえて来る源太、はたして清吉に、出入りを禁《と》むる師弟の縁|断《き》るとの言い渡し。鋭次は笑って黙り、清吉は泣いて詫びしが、その夜源太の帰りしあと、清吉鋭次にまた泣かせられて、狗《いぬ》になっても我ゃ姉御夫婦の門辺は去らぬと唸《うな》りける。
 四五日過ぎて清吉は八五郎に送られ、箱根の温泉《いでゆ》を志して江戸を出でしが、それよりたどる東海道いたるは京か大阪の、夢はいつでも東都《あずま》なるべし。

     其三十

 十兵衛傷を負うて帰ったる翌朝、平生《いつも》のごとく夙《と》く起き出づればお浪驚いて急にとどめ、まあ滅相な、ゆるり
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