ねざし》、利器《えもの》のなさに防ぐ術《すべ》なく、身を翻えして退《の》く機《はずみ》に足を突っ込む道具箱、ぐざと踏み貫《ぬ》く五寸釘、思わず転ぶを得たりやと笠《かさ》にかかって清吉が振り冠《かぶ》ったる釿の刃先に夕日の光の閃《きら》りと宿って空に知られぬ電光《いなずま》の、疾《と》しや遅しやその時この時、背面《うしろ》の方に乳虎一声、馬鹿め、と叫ぶ男あって二間丸太に論もなく両臑《もろずね》脆《もろ》く薙《な》ぎ倒せば、倒れてますます怒る清吉、たちまち勃然《むっく》と起きんとする襟元《えりもと》把《と》って、やい我《おれ》だわ、血迷うなこの馬鹿め、と何の苦もなく釿もぎ取り捨てながら上からぬっと出す顔は、八方|睨《にら》みの大眼《おおまなこ》、一文字口怒り鼻、渦巻《うずまき》縮れの両鬢《りょうびん》は不動を欺《あざむ》くばかりの相形《そうぎょう》。
やあ火の玉の親分か、わけがある、打捨《うっちゃ》っておいてくれ、と力を限り払い除《の》けんと※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》き焦燥《あせ》るを、栄螺《さざえ》のごとき拳固《げんこ》で鎮圧《しず》め、ええ、じたばたすれば
前へ
次へ
全143ページ中104ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング