ぞうり》もはかず後も見ず風より疾《はや》く駆け去れば、お吉今さら気遣《きづか》わしくつづいて追っかけ呼びとむる二[#(タ)]声三声、四声めにははや影さえも見えずなったり。

     其二十五

 材《き》を釿《はつ》る斧《よき》の音、板削る鉋《かんな》の音、孔《あな》を鑿《ほ》るやら釘《くぎ》打つやら丁々かちかち響き忙《せわ》しく、木片《こっぱ》は飛んで疾風に木の葉の翻《ひるが》えるがごとく、鋸屑《おがくず》舞って晴天に雪の降る感応寺境内普請場の景況《ありさま》賑《にぎ》やかに、紺の腹掛け頸筋《くびすじ》に喰い込むようなをかけて小胯《こまた》の切り上がった股引《ももひき》いなせに、つっかけ草履の勇み姿、さも怜悧《りこう》げに働くもあり、汚《よご》れ手拭《てぬぐい》肩にして日当りのよき場所に蹲踞《しゃが》み、悠々然と鑿《のみ》を※[#「石+刑」、第3水準1−89−2]《と》ぐ衣服《なり》の垢穢《きたな》き爺《じじ》もあり、道具捜しにまごつく小童《わっぱ》、しきりに木を挽《ひ》く日傭取り、人さまざまの骨折り気遣い、汗かき息張るその中に、総棟梁ののっそり十兵衛、皆の仕事を監督《みまわ》りか
前へ 次へ
全143ページ中102ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング