《ほ》れ、此処を何様して何様やつて其処に是だけ勾配有たせよ、孕みが何寸凹みが何分と口でも知らせ墨縄《なは》でも云はせ、面倒なるは板片に矩尺の仕様を書いても示し、鵜の目鷹の目油断無く必死となりて自ら励み、今しも一人の若佼《わかもの》に彫物の画を描き与らんと余念も無しに居しところへ、野猪《ゐのしゝ》よりも尚疾く塵土《ほこり》を蹴立てゝ飛び来し清吉。
忿怒の面火玉の如くし逆釣つたる目を一段視開き、畜生、のつそり、くたばれ、と大喝すれば十兵衞驚き、振り向く途端に驀向《まつかう》より岩も裂けよと打下すは、ぎら/\するまで※[#「石+刑」、第3水準1−89−2]ぎ澄ませし釿を縦に其柄にすげたる大工に取つての刀なれば、何かは堪らむ避くる間足らず左の耳を殺ぎ落され肩先少し切り割かれしが、仕損じたりと又|蹈込《ふんご》んで打つを逃げつゝ、抛げ付くる釘箱才槌墨壺|矩尺《かねざし》、利器《えもの》の無さに防ぐ術なく、身を翻へして退く機《はずみ》に足を突込む道具箱、ぐざと踏み貫く五寸釘、思はず転ぶを得たりやと笠にかゝつて清吉が振り冠つたる釿の刃先に夕日の光の閃《きら》りと宿つて空に知られぬ電光《いなづま》の
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