風より疾く駆け去れば、お吉今さら気遣はしくつゞいて追掛け呼びとむる二[#(タ)]声三声、四声めには既《はや》影さへも見えずなつたり。
其二十五
材《き》を釿《はつ》る斧《よき》の音、板削る鉋の音、孔を鑿《ほ》るやら釘打つやら丁※[#二の字点、1−2−22]かち/\響忙しく、木片《こつぱ》は飛んで疾風に木の葉の飜へるが如く、鋸屑《おがくづ》舞つて晴天に雪の降る感応寺境内普請場の景況《ありさま》賑やかに、紺の腹掛頸筋に喰ひ込むやうなを懸けて小胯の切り上がつた股引いなせに、つつかけ草履の勇み姿、さも怜悧気に働くもあり、汚れ手拭肩にして日当りの好き場所に蹲踞み、悠※[#二の字点、1−2−22]然と鑿を※[#「石+刑」、第3水準1−89−2]《と》ぐ衣服《なり》の垢穢《きたな》き爺もあり、道具捜しにまごつく小童《わつぱ》、頻りに木を挽割《ひく》日傭取り、人さま/″\の骨折り気遣ひ、汗かき息張る其中に、総棟梁ののつそり十兵衞、皆の仕事を監督《みまは》りかた/″\、墨壺墨さし矩尺《かね》もつて胸三寸にある切組を実物にする指図|命令《いひつけ》。斯様《かう》截《き》れ彼様《あゝ》穿
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