えるは嫌《きらひ》ぢや、矮小《けち》な下草《したぐさ》になつて枯れもせう大樹《おほき》を頼まば肥料《こやし》にもならうが、たゞ寄生木になつて高く止まる奴等を日頃いくらも見ては卑い奴めと心中で蔑視《みさ》げて居たに、今我が自然親方の情に甘へて其になるのは如何あつても小恥しうてなりきれぬは、いつその事に親方の指揮のとほり此を削れ彼《あれ》を挽き割れと使はるゝなら嬉しけれど、なまじ情が却つて悲しい、汝も定めて解らぬ奴と恨みもせうが堪忍して呉れ、ゑゝ是非がない、解らぬところが十兵衞だ、此所がのつそりだ、馬鹿だ、白痴漢《たはけ》だ、何と云はれても仕方は無いは、あゝッ火も小くなつて寒うなつた、もう/\寝てでも仕舞はうよ、と聴けば一※[#二の字点、1−2−22]道理の述懐。お浪もかへす言葉なく無言となれば、尚寒き一室《ひとま》を照せる行燈も灯花《ちやうじ》に暗うなりにけり。

       其十九

 其夜は源太床に入りても中※[#二の字点、1−2−22]眠らず、一番鶏二番鶏を耳たしかに聞て朝も平日《つね》よりは夙《はよ》う起き、含嗽《うがひ》手水《てうづ》に見ぬ夢を洗つて熱茶一杯に酒の残り香を払ふ
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