《ひと》の気持を悪うして、恩知らず人情無しと人の口端にかゝるのは余りといへば情無い、女の差出た事をいふと唯一口に云はるゝか知らねど、正直律義も程のあるもの、親方様が彼程《あれほど》に云ふて下さる異見について一緒に仕たとて恥辱《はぢ》にはなるまいに、偏僻《かたいぢ》張つて何の詰らぬ意気地立て、それを誰が感心なと褒ませう、親方様の御料簡につけば第一御恩ある親方の御心持もよい訳、またお前の名も上り苦労骨折の甲斐も立つ訳、三方四方みな好いに何故其気にはなられぬか、少しもお前の料簡が妾の腹には合点《のみこめ》ぬ、能くまあ思案仕直して親方様の御異見につい従ふては下されぬか、お前が分別さへ更《かへ》れば妾が直にも親方様のところへ行き、何にか彼にか謝罪《あやまり》云ふて一生懸命精一杯、打たれても擲かれても動くまい程覚悟をきめ、謝罪つて謝罪つて謝罪り貫《ぬ》いたら御情深い親方様が、まさかに何日まで怒つてばかりも居られまい、一時の料簡違ひは堪忍《かに》して下さる事もあらう、分別仕更て意地張らずに、親方様の云はれた通り仕て見る気にはなられぬか、と夫思ひの一筋に口説くも女の道理《もつとも》なれど、十兵衞はなほ
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