が講釈しましたが彼奴のやうなは大悪無道、親方は何日のつそりの頭を鉄扇で打ちました、何日《いつ》蘭丸にのつそりの領地を与《や》ると云ひました、私は今に若も彼奴が親方の言葉に甘へて名を列べて塔を建てれば打捨《うつちや》つては置けませぬ、擲《たゝ》き殺して狗《いぬ》に呉れます此様いふやうに擲き殺して、と明徳利の横面|突然《いきなり》打き飛ばせば、砕片《かけら》は散つて皿小鉢跳り出すやちん鏘然《からり》。馬鹿野郎め、と親方に大喝されて其儘にぐづりと坐り沈静《おとなし》く居るかと思へば、散かりし還原海苔《もどしのり》の上に額おしつけ既|鼾声《いびき》なり。源太はこれに打笑ひ、愛嬌のある阿呆めに掻巻かけて遣れ、と云ひつゝ手酌にぐいと引かけて酒気を吹くこと良久しく、怒つて帰つて来はしたものゝ彼様《あゝ》では高が清吉同然、さて分別がまだ要るは。
其十八
源太が怒つて帰りし後、腕|拱《こまぬ》きて茫然たる夫の顔をさし覗きて、吐息つく/″\お浪は歎じ、親方様は怒らする仕事は畢竟《つまり》手に入らず、夜の眼も合さず雛形まで製造《こしら》へた幾日の骨折も苦労も無益《むだ》にした揚句の果に他
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