な》が行く時も、まあ親方の身辺《まはり》について居るものを一人ばかり仲間はづれにするでも無いと私が親切に誘つてやつたに、我《おれ》は貧乏で行かれないと云つた切りの挨拶は、なんと愛想も義理も知らな過ぎるではありませんか、銭が無ければ女房《かゝ》の一枚着を曲げ込んでも交際《つきあひ》は交際で立てるが朋友《ともだち》づく、それも解らない白痴《たはけ》の癖に段※[#二の字点、1−2−22]親方の恩を被て、私や金と同じことに今では如何か一人立ち、然も憚りながら青涕《あをつぱな》垂らして弁当箱の持運び、木片《こつぱ》を担いでひよろ/\帰る餓鬼の頃から親方の手について居た私や仙とは違つて奴は渡り者、次第を云へば私等より一倍深く親方を有難い忝ないと思つて居なけりやならぬ筈、親方、姉御、私は悲しくなつて来ました、私は若しもの事があれば親方や姉御のためと云や黒煙の煽りを食つても飛び込むぐらゐの了見は持つて居るに、畜生ッ、あゝ人情《なさけ》無い野郎め、のつそりめ、彼奴は火の中へは恩を脊負つても入りきるまい、碌な根性は有つて居まい、あゝ人情無い畜生めだ、と酔が図らず云ひ出せし不平の中に潜り込んで、めそ/\めそ
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