様いふ其方の心算《つもり》であつたか、此方は例の気短故今しがたまで待つて居たが、何時になつて汝《そなた》の来るか知れたことでは無いとして出掛けて来ただけ馬鹿であつたか、ハヽヽ、然し十兵衞、汝は今日の上人様の彼お言葉を何と聞たか、両人《ふたり》で熟く/\相談して来よと云はれた揚句に長者の二人の児の御話し、それで態※[#二の字点、1−2−22]相談に来たが汝も大抵分別は既定めて居るであらう、我も随分虫持ちだが悟つて見れば彼譬諭《あのたとへ》の通り、尖りあふのは互に詰らぬこと、まんざら敵同士でもないに身勝手ばかりは我も云はぬ、つまりは和熟した決定《けつぢやう》のところが欲い故に、我慾は充分折つて摧《くだ》いて思案を凝らして来たものゝ、尚汝の了見も腹蔵の無いところを聞きたく、其上にまた何様とも為やうと、我も男児《をとこ》なりや汚い謀計《たくみ》を腹には持たぬ、真実《ほんと》に如是《かう》おもふて来たは、と言葉を少時とゞめて十兵衞が顔を見るに、俯伏たまゝたゞ唯《はい》、唯と答ふるのみにて、乱鬢の中に五六本の白髪が瞬く燈火《あかり》の光を受けてちらり/\と見ゆるばかり。お浪は既《はや》寝し猪の助が
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