ろへ濡れ滴りて這ひ上つた、爾時《そのとき》長者は歎息して、汝達には何と見ゆる、今汝等が足踏みかけしより此洲は忽然《たちまち》前と異なり、磧は黒く醜くなり沙《すな》は黄ばめる普通《つね》の沙となれり、見よ/\如何にと告げ知らするに二人は驚き、眼《まなこ》を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》りて見れば全く父の言葉に少しも違はぬ沙磧、あゝ如是《かゝる》もの取らんとて可愛き弟を悩せしか、尊き兄を溺らせしかと兄弟共に慚ぢ悲みて、弟の袂を兄は絞り兄の衣裾《もすそ》を弟は絞りて互ひに恤《いた》はり慰めけるが、彼橋をまた引き来りて洲の後面《うしろ》なる流れに打ちかけ、既《はや》此洲には用なければ尚も彼方に遊び歩かん、汝達先づこれを渡れと、長者の言葉に兄弟は顔を見合ひて先刻には似ず、兄上先に御渡りなされ、弟よ先に渡るがよいと譲合ひしが、年順なれば兄先づ渡る其時に、転びやすきを気遣ひて弟は端を揺がぬやう確と抑ゆる、其次に弟渡れば兄もまた揺がぬやうに抑へやり、長者は苦なく飛び越えて、三人ともに最《いと》長閑《のどけ》く徐《そゞろ》に歩む其中に、兄が図らず拾ひし石を弟が見れば美しき蓮華の形をな
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