》が羨ましがつて喚《よ》び叫ぶを可憐《あはれ》に思ひ、汝達には来ることの出来ぬ清浄の地であるが、然程に来たくば渡らして与《や》るほどに待つて居よ、見よ/\我が足下の此磧は一※[#二の字点、1−2−22]蓮華の形状《かたち》をなし居る世に珍しき磧なり、我が眼の前の此砂は一※[#二の字点、1−2−22]五金の光を有てる比類《たぐひ》稀なる砂なるぞと説き示せば、二人は遠眼にそれを見ていよ/\焦躁《あせ》り渡らうとするを、長者は徐《しづか》に制しながら、洪水《おほみづ》の時にても根こぎになつたるらしき棕櫚の樹の一尋余りなを架渡して橋として与つたに、我が先へ汝《そなた》は後にと兄弟争ひ鬩《せめ》いだ末、兄は兄だけ力強く弟を終に投げ伏せて我意の勝を得たに誇り高ぶり、急ぎ其橋を渡りかけ半途《なかば》に漸く到りし時、弟は起き上りさま口惜さに力を籠めて橋を盪《うご》かせば兄は忽ち水に落ち、苦しみ※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]いて洲に達せしが、此時弟は既《はや》其橋を難なく渡り超えかくるを見るより兄も其橋の端を一揺り揺り動せば、固より丸木の橋なる故弟も堪らず水に落ち、僅に長者の立つたるとこ
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