れませぬ、彼《あれ》が一人の母のことは彼さへ居ねば我夫にも話して扶助《たすく》るに厭は云はせまじく、また厭といふやうな分らぬことを云ひも仕ますまいなれば掛念はなけれど、妾が今夜来たことやら蔭で清をば劬ることは、我夫へは当分|秘密《ないしよ》にして。解つた、えらい、もう用は無からう、お帰り/\、源太が大抵来るかも知れぬ、撞見《でつくわ》しては拙からう、と愛想は無けれど真実はある言葉に、お吉嬉しく頼み置きて帰れば、其後へ引きちがへて来る源太、果して清吉に、出入りを禁《と》むる師弟の縁断るとの言ひ渡し。鋭次は笑つて黙り、清吉は泣て詫びしが、其夜源太の帰りし跡、清吉鋭次にまた泣かせられて、狗《いぬ》になつても我や姉御夫婦の門辺は去らぬと唸りける。
四五日過ぎて清吉は八五郎に送られ、箱根の温泉《いでゆ》を志して江戸を出しが、夫よりたどる東海道いたるは京か大阪の、夢はいつでも東都《あづま》なるべし。
其三十
十兵衞傷を負ふて帰つたる翌朝、平生《いつも》の如く夙《と》く起き出づればお浪驚いて急にとゞめ、まあ滅相な、緩《ゆる》りと臥むでおいでなされおいでなされ、今日は取りわけ朝風
前へ
次へ
全134ページ中112ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング