まないと、自分の身体《みうち》の痛いのより後悔にぼろ/\涙を飜《こぼ》して居る愍然《ふびん》さは、何と可愛い奴では無い歟、喃お吉、源太は酷く清吉を叱つて叱つて十兵衞が所へ謝罪《あやまり》に行けとまで云ふか知らぬが、其は表向の義理なりや是非は無いが、此所は汝《おまへ》の儲け役、彼奴を何か、なあそれ、よしか、其所は源太を抱寝するほどのお吉様に了《わか》らぬことは無い寸法か、アハヽヽヽ、源太が居ないで話も要らぬ、どれ帰らうかい御馳走は預けて置かう、用があつたら何日でもお出、とぼつ/\語つて帰りし後、思へば済まぬことばかり。女の浅き心から分別も無く清吉に毒づきしが、逸りきつたる若き男の間違仕出して可憫《あはれ》や清吉は自己《おのれ》の世を狭め、わが身は大切《だいじ》の所天《をつと》をまで憎うてならぬのつそりに謝罪らするやうなり行きしは、時の拍子の出来事ながら畢竟《つまり》は我が口より出し過失《あやまち》、兎せん角せん何とすべきと、火鉢の縁に凭《もた》する肘のついがつくりと滑るまで、我を忘れて思案に思案凝らせしが、思ひ定めて、応左様ぢやと、立つて箪笥の大抽匣、明けて麝香《じやかう》の気《か》と共
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