に投げ出し取り出すたしなみの、帯はそも/\此家《こゝ》へ来し嬉し恥かし恐ろしの其時締めし、ゑゝそれよ。懇話《ねだ》つて買つて貰ふたる博多に繻子に未練も無し、三枚重ねに忍ばるゝ往時《むかし》は罪の無い夢なり、今は苦労の山繭縞《やままゆじま》、ひらりと飛ばす飛八丈此頃好みし毛万筋《けまんすぢ》、千筋百筋気は乱るとも夫おもふは唯一筋、唯一筋の唐七糸帯《からしゆつちん》は、お屋敷奉公せし叔母が紀念《かたみ》と大切に秘蔵《ひめ》たれど何か厭はむ手放すを、と何やら彼やら有たけ出して婢《をんな》に包ませ、夫の帰らぬ其中と櫛|笄《かうがい》も手ばしこく小箱に纏めて、さて其品《それ》を無残や余所の蔵に籠らせ、幾干かの金懐中に浅黄の頭巾小提灯、闇夜も恐れず鋭次が家に。

       其二十七

 池の端の行き違ひより飜然《からり》と変りし源太が腹の底、初めは可愛う思ひしも今は小癪に障つてならぬ其十兵衞に、頭を下げ両手をついて謝罪らねばならぬ忌※[#二の字点、1−2−22]しさ。さりとて打捨置かば清吉の乱暴も我が命令けて為せし歟のやう疑がはれて、何も知らぬ身に心地快からぬ濡衣被せられむ事の口惜しく、唯さへ
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