と》の気心が働いて呉れたならば斯も貧乏は為まいに、技倆《わざ》はあつても宝の持ち腐れの俗諺《たとへ》の通り、何日《いつ》其|手腕《うで》の顕れて万人の眼に止まると云ふことの目的《あて》もない、たゝき大工|穴鑿《あなほ》り大工、のつそり[#「のつそり」に傍点]といふ忌※[#二の字点、1−2−22]しい諢名さへ負せられて同業中《なかまうち》にも軽しめらるゝ歯痒さ恨めしさ、蔭でやきもきと妾が思ふには似ず平気なが憎らしい程なりしが、今度はまた何した事か感応寺に五重塔の建つといふ事聞くや否や、急にむら/\と其仕事を是非|為《す》る気になつて、恩のある親方様が望まるゝをも関はず胴慾に、此様な身代の身に引き受けうとは、些《ちと》えら過ぎると連添ふ妾でさへ思ふものを、他人は何んと噂さするであらう、ましてや親方様は定めし憎いのつそりめと怒つてござらう、お吉《きち》様は猶ほ更ら義理知らずの奴めと恨んでござらう、今日は大抵|何方《どちら》にか任すと一言上人様の御定めなさる筈とて、今朝出て行かれしが未だ帰られず、何か今度の仕事だけは彼程吾夫は望んで居らるゝとも此方は分に応ぜず、親方には義理もあり旁《かたが》た
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