さうと今日の首尾は、大丈夫此方のものとは極めて居ても、知らせて下さらぬ中は無益《むだ》な苦労を妾は為ます、お上人様は何と仰せか、またのつそり奴は如何なつたか、左様真面目顔でむつつりとして居られては心配で心配でなりませぬ、と云はれて源太は高笑ひ。案じて貰ふ事は無い、御慈悲の深い上人様は何《ど》の道|我《おれ》を好漢《いゝをとこ》にして下さるのよ、ハヽヽ、なあお吉、弟を可愛がれば好い兄《あにき》ではないか、腹の饑《へ》つたものには自分が少しは辛くても飯を分けてやらねばならぬ場合もある、他《ひと》の怖いことは一厘無いが強いばかりが男児《をとこ》では無いなあ、ハヽヽ、じつと堪忍《がまん》して無理に弱くなるのも男児だ、嗚呼立派な男児だ、五重塔は名誉の工事《しごと》、たゞ我一人で物の見事に千年壊れぬ名物を万人の眼に残したいが、他の手も智慧も寸分|交《ま》ぜず川越の源太が手腕だけで遺したいが、嗚呼癇癪を堪忍するのが、ゑゝ、男児だ、男児だ、成程好い男児だ、上人様に虚言は無い、折角望みをかけた工事を半分他に呉るのはつく/″\忌※[#二の字点、1−2−22]しけれど、嗚呼、辛いが、ゑゝ兄《あにき》だ、ハヽヽ、お吉、我はのつそりに半口与つて二人で塔を建てやうとおもふは、立派な弱い男児か、賞めて呉れ賞めて呉れ、汝《きさま》にでも賞めて貰はなくては余り張合ひの無い話しだ、ハヽヽと嬉しさうな顔もせで意味の無い声ばかりはづませて笑へば、お吉は夫の気を量りかね、上人様が何と仰やつたか知らぬが妾にはさつぱり分らず些《ちつと》も面白くない話し、唐偏朴の彼《あの》のつそりめに半口与るとは何いふ訳、日頃の気性にも似合はない、与るものならば未練気なしに悉皆《すつかり》与つて仕舞ふが好いし、固より此方で取る筈なれば要りもせぬ助太刀頼んで、一人の首を二人で切る様な卑劣《けち》なことをするにも当らないではありませぬか、冷水で洗つたやうな清潔《きれい》な腹を有つて居ると他にも云はれ自分でも常※[#二の字点、1−2−22]云ふて居た汝《おまへ》が、今日に限つて何といふ煮切ない分別、女の妾から見ても意地の足らない愚図※[#二の字点、1−2−22]※[#二の字点、1−2−22]思案、賞めませぬ賞めませぬ、何《どう》して中※[#二の字点、1−2−22]賞められませぬ、高が相手は此方《こち》の恩を受けて居るのつそり奴、一体な
前へ
次へ
全67ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング