する、そうすると大概|小普請《こぶしん》というのに入る。出る杙《くい》が打たれて済んで御《お》小普請、などと申しまして、小普請入りというのは、つまり非役《ひやく》になったというほどの意味になります。この人も良い人であったけれども小普請|入《いり》になって、小普請になってみれば閑《ひま》なものですから、御用は殆どないので、釣《つり》を楽みにしておりました。別に活計《くらし》に困る訳じゃなし、奢《おご》りも致さず、偏屈でもなく、ものはよく分る、男も好《よ》し、誰が目にも良い人。そういう人でしたから、他の人に面倒な関係なんかを及ぼさない釣を楽んでいたのは極く結構な御話でした。
そこでこの人、暇具合《ひまぐあい》さえ良ければ釣に出ておりました。神田川《かんだがわ》の方に船宿《ふなやど》があって、日取《ひど》り即ち約束の日には船頭が本所側の方に舟を持って来ているから、其処《そこ》からその舟に乗って、そうして釣に出て行く。帰る時も舟から直《じき》に本所側に上《あが》って、自分の屋敷へ行く、まことに都合好くなっておりました。そして潮の好い時には毎日のようにケイズを釣っておりました。ケイズと申します
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