れずに糸が切れてしまう。あとはまた直ぐ鉤《はり》をくっつければそれでいいのです。この人が竿を大事にしたことは、上手に段々細にしたところを見てもハッキリ読めましたよ。どうも小指であんなに力を入れて放さないで、まあ竿と心中《しんじゅう》したようなもんだが、それだけ大事にしていたのだから、無理もねえでさあ。」
などと言っている中《うち》に雨がきれかかりになりました。主人は座敷、吉は台所へ下《さが》って昼の食事を済ませ、遅いけれども「お出《で》なさい」「出よう」というので以て、二人は出ました。無論その竿を持って、そして場処に行くまでに主人は新しく上手に自分でシカケを段々細に拵えました。
さあ出て釣り始めると、時々雨が来ましたが、前の時と違って釣れるわ、釣れるわ、むやみに調子の好い釣になりました。とうとうあまり釣れるために晩《おそ》くなって終いまして、昨日《きのう》と同じような暮方《くれがた》になりました。それで、もう釣もお終いにしようなあというので、蛇口から糸を外《はず》して、そうしてそれを蔵《しま》って、竿は苫裏《とまうら》に上げました。だんだんと帰って来るというと、また江戸の方に燈《ひ》
前へ
次へ
全42ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング