がチョイチョイ見えるようになりました。客は昨日からの事を思って、この竿を指を折って取ったから「指折《ゆびお》※[#「※」は小書きの「リ」]」と名づけようかなどと考えていました。吉はぐいぐい漕いで来ましたが、せっせと漕いだので、艪臍《ろべそ》が乾いて来ました。乾くと漕ぎづらいから、自分の前の処にある柄杓《ひしゃく》を取って潮《しお》を汲んで、身を妙にねじって、ばっさりと艪の臍《へそ》の処に掛けました。こいつが江戸前の船頭は必ずそういうようにするので、田舎《いなか》船頭のせぬことです。身をねじって高い処から其処《そこ》を狙ってシャッと水を掛ける、丁度その時には臍が上を向いています。うまくやるもので、浮世絵《うきよえ》好みの意気な姿です。それで吉が今|身体《からだ》を妙にひねってシャッとかける、身のむきを元に返して、ヒョッと見るというと、丁度|昨日《きのう》と同じ位の暗さになっている時、東の方に昨日と同じように葭《よし》のようなものがヒョイヒョイと見える。オヤ、と言って船頭がそっちの方をジッと見る、表の間《ま》に坐っていたお客も、船頭がオヤと言ってあっちの方を見るので、その方を見ると、薄暗く
前へ
次へ
全42ページ中40ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング