見ていた時に、なんじゃないか、先についていた糸をくるくるっと捲《ま》いて腹掛《はらがけ》のどんぶりに入れちゃったじゃねえか。」
 「エエ邪魔っけでしたから。それに、今朝それを見まして、それでわっちがこっちの人じゃねえだろうと思ったんです。」
 「どうして。」
 「どうしてったって、段々細《だんだんぼそ》につないでありました。段々細につなぐというのは、はじまりの処が太い、それから次第に細いのまたそれより細いのと段々細くして行く。この面倒な法は加州《かしゅう》やなんぞのような国に行くと、鮎《あゆ》を釣るのに蚊鉤《かばり》など使って釣る、その時蚊鉤がうまく水の上に落ちなければまずいんで、糸が先に落ちて後《あと》から蚊鉤が落ちてはいけない、それじゃ魚《さかな》が寄らない、そこで段々細の糸を拵えるんです。どうして拵えますかというと、鋏《はさみ》を持って行って良い白馬の尾の具合のいい、古馬にならないやつのを頂戴して来る。そうしてそれを豆腐《とうふ》の粕《かす》で以て上からぎゅうぎゅうと次第々々にこく。そうすると透き通るようにきれいになる。それを十六本、右|撚《よ》りなら右撚りに、最初は出来ないけれ
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