て、その中に何か入れでもしたのかまた塞《ふさ》いである。尻手縄《しってなわ》が付いていた跡でもない。何か解らない。そのほかには何の異《かわ》ったこともない。
 「随分|稀《めず》らしい良《い》い竿だな、そしてこんな具合の好《い》い軽い野布袋《のぼてい》は見たことがない。」
 「そうですな、野布袋という奴は元来重いんでございます、そいつを重くちゃいやだから、それで工夫をして、竹がまだ野に生きている中《うち》に少し切目《きりめ》なんか入れましたり、痛めたりしまして、十分に育たないように片っ方をそういうように痛める、右なら右、左なら左の片方をそうしたのを片《かた》うきす、両方から攻める奴を諸《もろ》うきすといいます。そうして拵《こしら》えると竹が熟した時に養いが十分でないから軽い竹になるのです。」
「それはお前|俺《おれ》も知っているが、うきすの竹はそれだから萎《しな》びたようになって面白くない顔つきをしているじゃないか。これはそうじゃない。どういうことをして出来たのだろう、自然にこういう竹があったのかなア。」
 竿というものの良いのを欲しいと思うと、釣師は竹の生えている藪《やぶ》に行って自
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